朦朧書簡 3 - 1 / 眞野瓦へ、鯛頭より
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朦朧書簡 3 - 1 / 眞野瓦へ、鯛頭より
鯛頭です。
オグちゃん、懐かしいな。
だいぶ前だけど、美人だったから顔をよく覚えてるよ。
あの後ポールが、
「なんで俺には何もねえんだあぁ!!」 なんて、マジで怒り散らしていたのが笑えたよな。
その後にまた飲み始めたじゃない。
初めに、残ってた紙パックの酒をやったら、メチャメチャ不味かってさ。
で、すぐにポールが冷蔵庫からビールを出して来て口直しだったよな。
あの頃はまだ発泡酒なんてなかったから、迷わずキリンの青いやつかサッポロでさ…。
そういや「夜々原」、覚えてるか。
ガキでもある程度食って飲めた店だよ。
お前ともよく行ったよな。
チェーン店並みの安さだけど地元の新鮮極まりない魚料理が最高だったよなぁ、、
んでマスターのまたあのエロ具合だよ。
料理しながら俺らのオンナバナシを毎度しっかり聞いてんだよな。
おかみさんが奥に行った瞬間、
「お前らなんだ今の話この!」なんちゅーてな。
おかみさんが怖くてマジメに仕事してないとやばいんだけど、ちょっと一人になるとエロ話が止まんなかったもんな。
元々遊び人なんだけど、おかみさんと一緒になってから一回色々バレて死ぬ目にあったらしいからな。
俺らも面白がって、わざと際どい話なんかを声デカ目で話してマスターの顔見て笑ってたもんな。
マスターも大体俺らが行くと、先ず居ても立ってもいられねえぐらいの状態でさ。
一回ピークを超えた時があっただろ。
「じゃ、マスター、これからちょっと行ってくるわ。」 なんて、皆んなで店を出て階段を降りたら、その後マスターがダダダーなんつって転げ落ちてきてから、
「俺だって遊びに行きてえんだ、このヤロー!」
なんて叫んでマジだったよな。
流石に宥めたけどよ。
いい人なんだけど、眼が怖いんだよな。
お前の顔をじっと見て、
「こういう顔のヤツが女装すると、いいんだよなぁ
ぁ…。」
て言った時のマスターの顔覚えてっか ?
口元だけニヤけてて、眼がぶっとんでただろ。
寒ブリを捌きながらな。
包丁と一緒に、マスターのメガネの縁も光っててよ。
女将さんが居なかったらと思うと、それもまた興味深いなんてポールが笑ってたもんな。
でもホントに料理は美味かった。
中でもやっぱ、脂の乗り具合の尋常ならざる八角なんかは思い出すとたまんねえよな。
あの後何年か経って、移転して出来た新店舗が料亭になってもうてから、すっかり俺らも行かなくなっちまった。
マスター、どんなんなってかなぁ … 。
じゃ、また!