朦朧書簡 2 - 1 / 眞野瓦へ、鯛頭より
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朦朧書簡 2-1 眞野瓦へ、鯛頭より
眞野瓦よ、お前そう言えば年始にあっこ行ったのか、ポールんところ。
俺も行きたかったんだけど、仕事で叶わなかったのよ。
暮れに「行きたいけど仕事の可能性があるんだよなぁ。」
なんてあいつと話してたんだけど、あんまり忙しくて、その後連絡出来ずでな。
まぁまず連絡しなくちゃ、なんて思いながらも何となくほっといたまんまなんてコトってよくあるじゃないのよ。
それな感じだ。
でも、やはりの仕事が入ってしまって、年末年始なのにダリー、行くなんて言ってたのに行けなくなった〜、とかその他諸々が重なるとな。
この歳になると皆んなそんなもんだろ?
まぁ、しょうがないか…なんちゅーてよ。
恐らく。
でも、仕事ってのがほんとそこの日程でしか出来なかったってのはほんとでさ。
あの一週間は夜勤と昼勤が入り交じって、寝る時間の調整にまいったもんだな、ほんと。
んで、間違ってビールでフラフラなまんま屋上のクレーンの解体をやったんだよ。
正に最終日の真夜中だよ。
眠たい、帰りたい、なんて思いながらも何とか本体をばらしてな。
玉掛けでブームの先の方迄行った時には、ブームの揺れと頭ん中の揺れの共鳴が起きてもうてさ。
実際揺れてるんだけど、実際どころじゃねえんだよ、お前もわかってると思うけど。
クレーンが底床設置で、落っこっても屋上だからって言ったって、10階建てだからな。
安全帯 (注1) はもちだけど、なんぼなんでもビビったよ。
そんで、ブームをばらし終えたから残りはどうってことないってんで、あとは酸素 (注2) 好きのパイセンに任せて下での荷受けにまわったのよ。
大体下の作業も纏めてから、搬出のトレーラーの荷台でタバコを吸って待機しながらビルの屋上を見上げるとさ。
先輩が酸素で切断する土台の鉄骨の溶けて飛び散る火花が、プシャーーーっなんつって飛び散るんだよな、、
それがまた、夏の川沿いのどんな花火の何よりも美しいんだよ。
切断機を操るパイセンの姿を想像しながら、
「かっこいいなぁ。。」
て、思ったよ、ほんと。
まぁ、そんな感じだったな、年末年始は。
今はちょっと前ほどじゃないけどまだ暇が襲ってきてるから、ポールんとこに行ってみっかなぁ、と思ってるよ。
でもよ、ビートルズ好きで、しょっちゅう夜遊びしてるってんで「ポール」って、未だに笑っちまうよな。
昼下がりだったらジョージだったな。
誰かに怒られるかもしれないけどさ。
そんなところで、じゃ!
ー ー ー ー ー
*注1 : 落下防止、道具携帯に使用する安全ベルト。ベルトとロープで繋がったフックを手摺りなどに引っ掛けて作業する。未装着での現場内での作業は禁止である。
*注2 : ガス溶断作業。切断器へのアセチレンガスと酸素の出力調整による炎によって金属を溶かして切断する。火花が散るので、作業着がポリエステルの場合は注意が要る。